原です。

新刊書の紹介。線形代数の教科書というのはほんとに沢山出ていて、
現行のものでも 50 冊なのか 100 冊なのかも分からない。そして
これらは2つに分類されます。それは、

 『プログラミングのための線形代数』
    平岡和之、堀玄 著、オーム社

とそれ以外です。と言えるぐらいユニークな本です。書名には「プ
ログラミングのための」とありますが、プログラミングというより、
線形代数の本として成立していて、書店ではコンピュータ関係でな
く、数学書のコーナーに置いてほしい。

内容は、線形代数の基礎から始まって、ジョルダン標準型、QR法
などの固有値計算法までで、普通の大学初年度の線形代数以上の内
容が含まれています。

数学の教科書というのは、とにかくクールならクールなほど良い、
余計な事は書かない、というのが伝統なのですが、この本は真逆。
饒舌で、多くの図式、それも理解しているそれぞれの人が、実は頭
の中だけに隠しているような、本質をつく図式を出し惜しみなく見
せてしまう。「定理 => 証明」というスタイルではなく、定義、定
理の意味を説明することに一番力を注いでいる。けれど更にどの話
も話で終わらせずに、かみくだいた証明を付けている。実は律儀。

ところで、最も特徴的なのは「?」で始まる枠付きのコラム。これ
が本書 340 ページ余りのほぼ 3 分の 1 ぐらいをしめるというボ
リュームで、初めて線形代数を勉強した人の持つであろう「?」を
リストアップし全部に解説してしまう、という恐るべき試み?!
「どっちが行でどっちが列」とか「|A| が負になるなんて」とか「/
方向の対角線は考えないの?」とか、人に(特に数学の先生には)
聞くのがちょっと恥ずかしい疑問などに丁寧に答えている。一方で、
数ベクトル同士の積を成分毎にしない理由の一つとして、座標変換
で不変でない事をあげたり、結構深い話もさりげなくしている。

さすがにジョルダン標準型の話をこのスタイルでするのは難しくて、
ここだけは他の教科書と併読するのがいいかも。って言ったって元々
ややこしいんだからしょうがない。

とこで、なぜ ruby-math で紹介しているかというと、線形代数に
現れるアルゴリズム(の一部)を ruby コードで表現しているので
す。くどくど文書で説明するより、コードの方が分かりやすいはず
なので、有効だと思います。コード部分の分量はごく控えめです。

しかし、この本で分からないモノが3つ合って、1つは60年代ア
メコミ風の表紙、何じゃこりゃ。2つめはアニメーションに現れる
「ゲ」、何を好んでゲ?3つめは各コラムの「?」についている影
です、とうとう老眼になったかとオモタ。

ともあれ、線形代数の内容自体はここしばらく変わってないし、ま
だ100年ぐらい変わらないだろうけど、その教科書にはまだまだ
工夫の余地がこんなにあるんだ、と教えてくれる本でした。